トップページ
生物学科
生物学の新知識
生体内のレドックス(酸化還元)反応と活性酸素種

生物学科

生体内のレドックス(酸化還元)反応と活性酸素種

レドックス(酸化還元)反応

 酸化は英語でoxidation、還元はreduction、酸化還元はredoxといいます。高校化学で酸化還元について学ぶので詳細は説明しませんが、酸化還元とは酸素を受け取ると酸化され、水素を受け取ると還元され、電子の授受を伴う反応です(図1)。食品中のタンパク質、脂質、糖質などが酸化されると、食品の劣化が起こります。それを防ぐために、真空パックや脱酸素剤封入包装、食品添加物として水溶性抗酸化物質のビタミンC、脂溶性抗酸化物質のビタミンEの添加など、様々な工夫で酸化を防いでいます。例えば、ペットボトルなどの緑茶にアスコルビン酸(ビタミンC)を添加することにより、緑茶の鮮やかな緑色が酸化によって茶色く変色するのを防ぎます。最近の例では、醤油の容器を二重構造にし、内側容器が密封されるような仕組みで酸化による風味劣化や変色を防ぎ、鮮度が保てるというキャッチフレーズで販売されている商品もあります。

 好気性生物は、生体内で酸化還元反応を利用したエネルギー代謝により、エネルギーを産生しています。エネルギー代謝の副産物として、活性酸素種が発生しますが、生体内は抗酸化防御機構も兼ね備えています。活性酸素種は様々な原因で発生します。例えば生理的因子として呼吸、白血球などによる異物や細菌の処理、薬物の代謝処理など、病的因子として虚血再還流、過度の運動、精神的・肉体的ストレス、感染、炎症など、外的因子として喫煙、紫外線、放射線、大気汚染、重金属などがあげられます。抗酸化防御機構による活性酸素種の消去能力を上回る活性酸素種は、タンパク質や脂質、糖質、核酸などの生体成分を酸化修飾し、生理機能の低下、疾病の発症や進行、老化などの一因となることが報告されています。このような訳で、酸化ストレスが一因とされる疾病の治療法や新規治療法開発に、レドックス制御機構が着目されています。

活性酸素種と抗酸化酵素

 活性酸素という言葉をサイエンス番組等で耳にしたことがあると思います。活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)とは、反応性の高い酸素種の総称で、スーパーオキシド(superoxide:O2•-)、過酸化水素(hydrogen peroxide:H2O2)、ヒドロキシラジカル(hydroxyl radical:OH)、一重項酸素(singlet oxygen:1O2)などがあり(図2)、生体内で酸化剤として作用します。また、スーパーオキシドとヒドロキシラジカルは不対電子を持つので、フリーラジカルともよばれます。

生体内の主な活性酸素種発生源はミトコンドリアです。ミトコンドリアは生体内の約95%の酸素を消費し、そのうち1~3%が活性酸素種に変換されると推測されています。酸素分子が一電子還元されるとスーパーオキシドになります。電子伝達系から漏れ出る電子が酸素分子を還元し、複合体Iからマトリックス側に、複合体IIIからマトリックスと膜間腔側に、それぞれスーパーオキシドが産生されることが報告されています。また、好中球やマクロファージなどの貪食細胞において、NADPHオキシダーゼなどの活性酸素産生酵素系によりスーパーオキシドを産生し、生体防御に必要不可欠な役割を担っています。

 生体内にはスーパーオキシドを酸素と過酸化水素に不均化する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD:superoxide dismutase)が存在し、活性酸素種の最上流であるスーパーオキシドを式1、2のように不均化します。

     M(n+1)+—SOD + O2•- → Mn+—SOD + O2 (式1)

     Mn+—SOD + O2•- + 2H+ → M(n+1)+—SOD + H2O2 (式2)

Mは活性中心のMetalを表し、Cu (n=1), Mn (n=2) ヒトSODにはSOD1(Cu,Zn-SOD)、SOD2(Mn-SOD)、SOD3(EC-SOD:extracellular SOD)の3つのアイソフォームがあり、ミトコンドリアのマトリックスに存在するSOD2のノックアウトマウスは胎生致死であることより、ミトコンドリアで発生するスーパーオキシドを消去することは生命維持に不可欠であることがわかります。

 スーパーオキシドが一電子還元された過酸化水素は、不対電子を持たないのでフリーラジカルではありませんが、活性酸素種のひとつです。SODがスーパーオキシドを不均化した際に生じます。また、グルコースオキシダーゼなどによって酸素分子から二電子還元によっても生成されます。過酸化水素はミトコンドリア内膜、外膜など細胞膜を通過できるので、細胞内の鉄などの遷移金属と反応すると、式3のように一電子還元され、ヒドロキシラジカルを生じます。

     H2O2 + Fe2+OH + OH- + Fe3+ (式3)

式3の反応はフェントン反応と呼ばれ、生体内で生じるほとんどのヒドロキシラジカルは、この反応で生じると考えられています。また、式4のハーバー・ワイス反応のように過酸化水素はスーパーオキシドとの反応でもヒドロキシラジカルが生じます。

     H2O2 + O2•-OH + OH- + O2 (式4)

ヒドロキシラジカルは活性酸素種の中でも非常に反応性が高く、タンパク質や脂質、糖質、核酸などの生体成分を酸化します。従って、ヒドロキシラジカルの前駆体である過酸化水素を消去することは重要です。生体内にはグルタチオンペルオキシダーゼ/グルタチオンリダクターゼや、ペルオキシレドキシン/チオレドキシン/チオレドキシンリダクターゼ、カタラーゼなどの過酸化水素を還元する抗酸化機構があり、これらの酵素反応によって水へと還元されます。

 酸素原子はL殻に2個の不対電子を持っており、酸素分子を形成する際にそのうちのひとつの不対電子が互いに結合に用いられるので、合計2個の不対電子を持つ分子構造をとり、ビラジカルとよばれます。通常、酸素分子にある2個の不対電子のスピンは、三重項酸素(3O2)という比較的安定な基底状態で存在しています。リボフラビンやポルフィリン、抗生物質や抗炎症薬など光増感剤として働く可能性がある物質の存在下で、光反応により励起状態となり、2個の不対電子のスピンが逆向きになり、一重項酸素(Σ1O2)になります。逆スピンをもつ2個の不対電子は非常に不安定なので、同一軌道上に遷移し、一方の電子軌道が空になります(Δ1O2)。Δ1O2の方が安定なため、通常一重項酸素はΔ状態をさします。空になった電子軌道が電子を求めることにより、一重項酸素は強い酸化力を持ち、不飽和脂肪酸のような二重結合を有する化合物を酸化して脂質ヒドロペルオキシドを生成します。また、ポルフィリン症患者では日光に強く当たると一重項酸素により皮膚障害が起きることも報告されています。

 2013年夏のオープンキャンパスの体験授業で活性酸素種や抗酸化酵素、抗酸化物質の講義をしました。多くの高校生が参加してくださり、講義後に質問にもきてくれました。「活性酸素って、ひとつの物質だと思っていたけれど、活性酸素種というように、こんなに種類があったのですね。」「テレビで活性酸素が出てくる時は、きまって悪玉だけれど、善玉の役割もあって驚きました。」など、いろいろな高校生の声を講義後に聞かせてくださり、ありがとうございました。生物学科のホームページに連載されている「生物学の新知識」で、生物学に興味を持ってくださる方が増えたら嬉しいかぎりです。

血液生物学研究室:松本紋子